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店長ブログ

元・慶應大風俗嬢の「根深い心の闇」①

2018/05/15 22:36

「風俗嬢」と訊くと、日常的に派手なメイクをして、フェロモンをたっぷりふりまき、繁華街を闊歩するような女性を想像する。しかし、これまで筆者が取材してきた経験上、実はそういう風俗嬢のほうが珍しい。
性格は真面目、地味でおとなしく、なかには高学歴といった女性が風俗店に通い、セクシーな下着に着替えて性的サービスをしている。
慶應義塾大学を昨年卒業した白石安奈さん(仮名、23歳)もそんな典型的な「地味で真面目な風俗嬢」のうちの一人だ。大学時代にはじめた風俗嬢を今も続けて、社会人になっても週に1度のペースで出勤している。
正直に言うと彼女には華がなく、男性の目を惹く外見でも体型でもない。むしろ、どちらかと言えば貧相な雰囲気を纏っている。
白石さんとは、2年前の女子大生風俗嬢の取材で出会った。当時の彼女は就活への意気込みと風俗嬢として売れない悩みを話してくれた。聞けば、いくつか店を変わっても風俗嬢としてまったく売れないという。久しぶりに連絡をとると、就職し、就業時間以外だったら取材は構わないとのことだったので、早速会うことにした。

就活に失敗、風俗嬢としても売れず

「あの後、ベンチャー企業に正社員として入社しました。社員数が100人程度の小さな会社で、新卒は数人だけ。結局、そんなところにしか採用されませんでした。今は風俗は月3日程度の出勤で、土日に予約か本指名されたときだけ行っています」
彼女が学生時代から勤めている風俗店は、大塚巣鴨地区にある、本番を売りに集客する違法営業のデリヘル店だ。このエリアでは珍しくない営業形態の店である。「25歳以上の若妻熟女」が売りで、それまで所属していた若い女性がメインの店では売れずに悩んでいた彼女は、大学4年からこの風俗店で働いている。
「会社から安定した給料がもらえるので、風俗はメインではありません。たまに出勤しているだけ。実家暮らしだし、借金もないし、今のところ会社の給料だけで十分生活できます。手取り18万円~20万円くらい。年俸制で320万円くらい。すぐに抜かれるでしょうけど、大手に行った同級生と比べると、まだ少しだけ高い金額です」
白石さんは2年前の取材時では、日本人なら誰もが知っているような超有名企業への就職を希望していた。学生向けの就職セミナーやインターンにも積極的に参加する、就職に意識の高い、前のめりな大学生だった印象が強い。
しかし、就活は思うようにいかなかったようだ。現在働くベンチャー企業の同期や先輩のなかで、慶應義塾大学の出身者は彼女だけという。
「大学2年生の夏から活動していたのに、本当に情けないです。インターンを含めると、100社以上に応募してすべて落ちました。知り合いのお情けで、いま勤めている会社を紹介してもらって就職しました」
「就活ではエントリーシートが通らず、通っても面接で落とされ、グループディスカッションでもうまく話せない…そんな状態を繰り返して、結局内定ゼロで終わりました」

大学2年夏という早い時期から就活を始めたのは、生まれて初めてできた彼氏の影響だった。大学の同級生だった彼は「慶應大卒というカードは新卒でしか切れない、本当に人生を左右することなのできっちり決めないと」という意見で、白石さんもその考えに全面的に共感した。
一流企業で活躍する未来をお互いに語りあい、就活関連のセミナーに何度もともに通った。就職活動が本格化し、彼女の不採用が続く一方で、彼氏は超一流会社への内定があっさりと決まり、そのことで二人の関係に暗雲が立った。
だんだんと会う頻度も少なくなり、その後も内定をもらえなかった白石さんは、夏になって彼氏にフラれてしまった。

「時給5000円」に騙されて

歌舞伎町の区役所通りにある窓のない喫茶店で話を聞いている。風俗嬢の取材なので、なんとなく選んだ場所だ。夕方で周りは出勤前の水商売の女たちやその関係者が多く、香水と煙草の匂いが漂う。
熱心に化粧する女性、裏社会風の男性と話し込む女性。これから歌舞伎町の夜が始まろうとしているのに、目の前にいる白石さんは、おととい田舎から上京してきた、お金のない学生のようだった。おそらく他の客から見ても、誰も彼女を風俗嬢とは思わないだろう。
東京出身の白石さんは、都立中堅高校から現役で慶應義塾大学に進学している。三人兄弟の長女として育ち、裕福とは程遠い家庭ではあったが、大学の学費は両親が払ってくれたという。自宅から大学へ通学し、学校近くの飲食店で月5万~7万円の生活費を稼いだ。その時は特に経済的に困ることはなかったと話す。

大学2年生の夏に同じサークルの同級生と交際を始め、彼氏の影響で就活を意識するようになった。しかし、同じ頃に風俗嬢にもなっている。男性経験がその彼氏1人、処女喪失から10日くらいしか経ってない状態で女子大生風俗嬢になったという。

「一番の理由は、夏休みに彼氏と旅行に行く費用を稼がなくちゃいけなかったからです。10万円以上がかかるって言われて、払えたけどそのお金を飲食店のアルバイトだけで用意するのが厳しかったんです。
それで高校時代の友達と『お金ないよね』なんて言い合っていて、ちょうどその時に、たまたまもらったティッシュに書いてあった時給5000円の求人に連絡しよう、ってなったんですよ。「時給5000円」に疑いながらも面接に行って、体験入店して。友達はそこでは働かなかったけど、面接に行ってからしばらくして、デリヘルで働きはじめました」


求人広告の番号に電話をすると、店の最寄り駅まで来るよう言われた。採用担当の男性が待っていて、そのまま近くの喫茶店へ行った。ティッシュには「女子大生サロン」と書いてあり、性的サービスについては一切書かれていなかった。
喫茶店につくと男性は、ピンクサロンの仕事とシステムの説明を始めた。1日で辞めていいからと体験入店をしきりに薦め、それでも日給1万円を支払うと言う。
10日前まで処女で、20歳になったばかりの白石さんが、「ピンクサロン」について、店の採用担当者の話だけで理解し、仕事内容を判断できるとは思えない。「体験」という気軽さにも気が緩み、言われるがままに、その男性と店に行った。
ピンクサロンで男性客が支払う金額は、一般的には5000円程度と安く、そこで働く女性からすれば、最も割にあわない業態と評価は低い。しかし「初めての風俗はピンサロ」という女性が意外にも多い。それは白石さんが体験したように、性的サービスを匂わせない、著しく高時給な求人広告を出して働くように誘導するシステムが出来上がっているからだ。
そういう素人女性が望まないままにピンサロに誘導される、という話は20年以上前から定番である。

「実際は即日5000円をもらって、次回の出勤のときに残りの5000円を渡されました。広告に書いてあった時給は嘘で、新人の1カ月間は3000円、その後は2500円でした。
給与の支払い方法も体験入店の時と同じで、日当は働いた当日にはもらえず、次の出勤時に支払われる。お金を渡しちゃったら店に女の子が来なくなっちゃうからです。
お店で働くほとんどが、10代の若い女の子ばかりでした。たぶん、私と同じような流れで働くようになったんだと思う。ピンサロは不衛生だし、お金にならないし、すぐに辞めたかった。けど、辞めさせてもらえなかったので、半年以上続けました」

AV強要が社会問題になっている。芸能人やタレント、またパーツモデルなどと偽って勧誘し、AV撮影に誘導する現実が可視化されて大問題となった。現在進行形で逮捕者が相次いでいる。

性的な仕事はするつもりがなかったのに巧みに誘導されてピンサロ嬢になってしまった白石さんのケースは、AV強要と酷似している。勧誘する店は採用のプロだ。どう話せば素人の女性が性的サービスをすることに頷くか、また継続させることができるかを知り尽くしている。
逃げたくても強面のボーイから電話がかかってくる。未払いの給与もある。結局ズルズルと続けてしまった。
その夏は、知らない男性に性的サービスをして稼いだお金で、予定通りに彼氏と旅行に行った。
 

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